コロナ禍を脱し、業績を回復させている企業も多い中で、依然として根深い問題となっている人手不足の問題。介護業界の人手不足は今に始まったことではありませんが、今や飲食店や小売業、サービス業を中心に、どの業種でも共通の悩みとなっております。
企業も真剣に対策を講じる一方で、職場環境の整備に積極的に取り組む企業は人材の採用・定着に奏功しているようです。
今回はその実態を掘り下げてみたいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。
皆さんもご承知の通り、コロナ禍がはじまった2020年以降、日本の経済は一気に停滞し、企業によっては業績が地に落ちかける状況でした。国も様々な施策を講じ、何とかしてこの状況を脱却しようと必死に取り組んできたことでしょう。
介護業界は特に大変でした。コロナ感染者のケアをしつつ、介護・医療従事者自身も感染に細心の注意を払い、どうにか水際で食い止めてきたわけです。
それでも発生してしまうクラスター感染・・・現場で踏ん張ってこられた皆様には、足を向けて寝られない位感謝に堪えません。
介護・医療従事者の中には、自らもコロナに感染されて苦しまれた方もいらっしゃることでしょう。筆者も2021年の夏に家族含めてコロナに感染し、1ヶ月間家から一歩も出られず苦しい思いをしてきましたので、そのつらさは痛い程理解しているつもりです。
感染したら否応なしに休むしかありません。自分が休んでいる間、手薄の人員体制を何とかやりくりして頑張ってこられた介護士さんや看護師さんたち・・・
皆様がいらっしゃったから、この近年稀にみる国難を乗り越えることができたといっても、決して過言ではありません。
2023年5月にコロナが感染症分類の「5類」に位置づけられました。まだまだコロナに感染する方はいらっしゃるものの、世界的大流行という危機的状況は脱し、平常を取り戻した感があります。
同時に、企業の売上高は感染症後に急激に回復し、都内を中心に外国人観光客が増えてきました。久しく冷え込んでいたインバウンド需要も、すっかりコロナ禍前の水準に戻ったという印象です。
私たちの生活は、ほぼコロナ禍前の状態に戻ったといってよいでしょう。
経済産業省の直轄である「中小企業庁」において、毎年「中小企業白書」というものが公表されています。
中小企業白書は、わが国企業の99.7%を占める「中小企業」の現状と直面する課題、今後の展望として、中小企業が環境変化を乗り越え、経営資源を確保して生産性の向上に繋げていくための取組や、成長につながり得る投資行動とそのための資金調達、支援機関の役割と体制の強化について分析したものです。
この白書において、特筆すべき課題について取り上げられていました。
その1つに「人手不足」が挙げられます。
今回のコラムで取り上げた理由は、私たち介護サービス事業所においても共通の課題であり、何とか対応していかなくてはならない重要な内容であると考えたからです。
コロナ禍が落ち着き、日本経済が回復して喜ばしいと思う反面、企業を襲っているのが「人手不足」です。
人手不足は、コロナ禍前から深刻な問題ではありました。
これまでは、主として女性やシニア層が生産年齢人口の減少を補う形で就業が進んできた部分があります。しかしそれはいつまでも続かず、就業者数の増加が頭打ちとなってきました。一気に人材の供給制約に直面してきたといってよいでしょう。
有効求人数と有効求職者数を比較しても、求人数が求職者数を大幅に上回っている。完全な「売り手市場」の状態というわけです。
介護業界でも、例えば訪問介護においては「ヘルパー求職者1名に対して事業所が10ヶ所以上」という驚くべき現状がずいぶん前から起こっています。訪問看護においてもほぼ同様で、訪問看護師を安定的に確保することは非常に困難で、どこの事業所も苦労されていることと思います。
上記は、2024年版中小企業白書において「職場環境の整備への取組別の『従業員数の変動状況』」と示すデータです。職場環境を整備したことにより、従業員の増減や定着がどう影響しているのかを示しています。
こちらを見ますと、「職場環境の整備」を積極的に取り組んでいる企業ほど、従業員数が増加(=採用、定着に成功)していることが読み取れます。
具体的に示しますと、職場環境整備を「積極的に行っている」企業で「従業員が増えている」と回答したのは5割に迫る一方で、環境整備を「行っていない」企業は2割弱となっている。その差は2.5倍以上である。
コロナ禍後に特に顕著となっている「人手不足」という課題を解決するため、各社で働き方改革の取組みが盛んに行われています。
上記は「2024年度版 中小企業白書」の概要版から引用したものですが、「人手不足となっていない企業が何に取り組んでいるか」を調査したデータです。
上記資料の右側を見ますと、人手不足になっていない要因として「賃金・賞与の引き上げ」「働きやすい環境づくり」「定年延長・シニアの再雇用」「福利厚生の充実」等が上位を占めています。
賃金を上げるということは、介護業界ではなかなか簡単にいかないかもしれません。
しかし今年度から、介護報酬改定において介護職員処遇改善加算の更なる充実が図られることとなりました。医療においても「医科(歯科・訪問看護等)ベースアップ評価料」という加算が導入されます。
制度設計については、当然賛否両論あります。
「加算率がまだ低すぎる」「算定要件が厳格すぎて対応できない」等々あるでしょう。
しかしそれでも、介護事業所は積極的に上位の加算を算定していかなくてはなりません。
福利厚生の充実についても、離職率が高い業界といわれて久しい介護の世界で、例えば退職金の導入を検討しようにも、いろいろ考えがあるかもしれません。「どうせすぐにやめてしまうのだから、退職金制度を導入する意味はない」とか・・・
しかし、実際に退職金制度などの福利厚生を導入している介護法人は、たくさんあります。「カフェテリアプラン」といわれる福利厚生サービスを、商工会議所等を活用して導入する法人もあります。従業員あたりの会費を負担することで、中小企業においても福利厚生を充実させることは可能です。例えば「スポーツクラブ割引利用」「格安で旅行に行ける」「習い事ができる」等です。
こういう取組は、それほど負担をかけることなく対応できるのではないでしょうか。
「テレワーク」も、工夫次第でやれなくはありません。
訪問看護も、出社と在宅ワークのハイブリッド対応で負担軽減ができそうです。実際に国もテレワークの導入には条件付きながら積極的です。
職場環境の整備を進めることは、新規採用に取り組む上で「自社のアピールポイント」として欠かせないといってよいでしょう。
また、採用してもなかなか定着しないという企業にも、職場環境の整備は役立ちそうですね。
労働者の働き方は多様化しています。
旧態依然とした労働環境に固執していると求職者から支持されにくい企業になってしまいかねないといえます。
人材確保に課題がある企業は、こうした取り組みをぜひ参考にされてみてはいかがでしょうか。
今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。