訪問看護サービスの報酬には、基本報酬と加算の2つに大別されます。加算にもいろいろありますが、自宅等で療養する利用者様で「特別な管理」が必要な方に対して、適切な管理を行っている場合に加算として「特別管理加算」があります。
しかしこの特別管理加算には2区分あり、それぞれ加算項目によって算定条件や報酬額が異なります。今回は、訪問看護の特別管理加算について、介護保険と医療保険の関係性を含めご紹介いたします。
訪問看護における特別管理加算とは、医療的な管理が求められる利用者様に対して、適切な処置・管理を行っている場合に算定できる加算です。
・訪問看護ステーション(医療保険、介護保険)
・看護小規模多機能型居宅介護
・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
上記は、看護師が主として提供されるサービスです。
訪問看護師が提供するサービスにおいて、利用者様の容態や状態に応じた適切な処置・管理を行った場合、それを評価することを目的に算定できる加算が「特別管理加算」となるわけです。
特別管理加算は、医療保険・介護保険の両方に存在します。介護保険の場合、介護予防サービスにおいても適用されます。
利用者が医療保険・介護保険のどちらでサービスを受けていても、特別管理加算の要件を満たしていれば算定できます。
加算の算定に先立ち、そのままでは算定することができません。算定要件を満たした上で、事業所を管轄する行政機関への届出が必要です。
介護保険の場合は、加算の体制届や体制状況一覧表などを作成し、指定権者である行政への届出が必要ですし、医療保険の場合は、管轄の地方厚生局長に届け出を申請しなければなりません。医療保険の場合、24時間サービス提供できる体制を整備していることも要件となります。
届出なく加算を算定した場合は、返戻になるか、報酬を得たとしても不正請求につき報酬返還指導等の処分を受けることになります。
特別管理加算には、介護保険・医療保険ともに以下の2区分に分けられます。
特別管理加算(Ⅰ) 500単位/月
特別管理加算(Ⅱ) 250単位/月
特別管理加算(Ⅰ) 5,000円/月
特別管理加算(Ⅱ) 2,500円/月
上記の通り、(Ⅰ)のほうが(Ⅱ)よりも報酬額が高くなります。それぞれ加算条件や、適用される利用者条件が異なることに注意しましょう。
以下、その違いについて解説いたします。
特別管理加算(Ⅰ)が算定できるのは、どういう方でしょうか。
次の条件に当てはまる利用者様に対して、特別管理加算の算定が可能となります。
在宅悪性腫瘍患者指導管理を受けている
在宅気管切開患者指導管理を受けている
気管カニューレを使用している
留置カテーテルを使用している
上記の条件どれかに当てはまる利用者は、特別管理加算の対象であり、状態によって加算額が決定します。特別管理加算(Ⅰ)の算定対象となる方は、一般に「重症度の高い方」といってよいでしょう。
「在宅悪性腫瘍患者指導管理を受けている状態」とは、ガン末期の状態である方が疼痛コントロールをするにあたり、経口による服薬摂取ができないために注射による投与が必要な状態、ということです。このため、座薬や貼付剤での治療については対象外で、あくまで注射による疼痛コントロールを行った場合にのみ特別管理加算(Ⅰ)が算定できることになります。
「気管カニューレを使用している状態」とはどういう状態でしょうか?
気管切開術を行った方に対し、気管切開孔の場所に留置する管のことを「カニューレ」といい、このカニューレを通している状態です。
カニューレ(管)を通さなければ空気の通り道が塞がってしまい、呼吸ができない状態であるわけですから、これは「極めて重症な状態」という建て付けになります。
「留置カテーテルを使用している状態」とは、胃管や腎ろう・膀胱留置カテーテルのように、常にカテーテルを使用している状態です。
カテーテル留置をしている利用者様については、特別管理加算が算定できるわけですが、一時的な対応では要件を満たしません。
また、カテーテル留置しているだけでなく、例えば排液の性状や量の観察、水分量の調整、薬剤注入といった対応を「訪問看護計画」のもとで実施しなければなりません。
特別管理加算(Ⅱ)の対象者については、以下に掲げる状態となります。
在宅自己腹膜灌流指導管理を受けている
在宅血液透析指導管理を受けている
在宅酸素療法指導管理を受けている
在宅中心静脈栄養法指導管理を受けている
在宅成分栄養経管栄養法指導管理を受けている
在宅自己導尿指導管理を受けている
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理を受けている
在宅自己疼痛管理指導管理を受けている
在宅肺高血圧症患者指導管理を受けている
人工肛門また人工膀胱を使用している
真皮を越える褥瘡の状態
点滴注射を週3日以上行う必要がある
となります。
上記を確認しますと、特別管理加算(Ⅱ)は(Ⅰ)より、医療的な容態が比較的軽症であるとご理解いただけるかと思います。
対象疾患について解説しますと、居宅等で「腹膜灌流」を行う利用者様に対して指導管理を行う場合は、特別管理加算(Ⅱ)の対象となります。
「腹膜灌流」とは、簡単にいいますと「透析」です。腎臓疾患のある方に対して殺菌した透析液を腹腔に注入し不要物を除去する医療行為となります。
透析には、血液透析器を使って不要な老廃物や水分を除去する医療行為もあります。これを「血液透析」といいますが、このケースで適切な指導管理を実施していれば、特別管理加算(Ⅱ)が算定できます。
さらに酸素療法・中心静脈栄養の治療等、特定の治療を居宅等で行う必要がある利用者様に対しても、適切な管理・治療を行っていれば特別管理加算(Ⅱ)の算定が可能となります。
人工肛門や人工膀胱の使用や、真皮を越えるような重度の褥瘡処置が必要とされる利用者に対しても、適切な管理のもとで処置を実施すれば特別管理加算(Ⅱ)が適用されます。
点滴注射は、「週に3日以上」実施する場合のみ加算対象となります。
点滴期間が週3日以上確保できなかった場合、特別管理加算の算定はできません。「点滴実施=特別管理加算算定可能」と勘違いされている方が結構いらっしゃいますが、これは誤りですので注意が必要です。
- 特別管理加算(Ⅰ)・(Ⅱ)の両方を併用できますか?
- 特別管理加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は、両方を算定することはできません。いずれか一方のみ算定できます。もちろん、算定要件を満たしていることが大前提です。
例えば、人工肛門を使用している利用者がバルーンカテーテル留置をされているケースで、特別管理加算をどう考えればよいでしょうか?
上記の場合、特別管理加算は(Ⅰ)(Ⅱ)の両方の算定要件を満たします。しかし、加算自体はどちらか一方しか算定できません。特別管理加算(Ⅰ)の方が単位数・金額が高いため、おのずと高い報酬額となる「特別管理加算(Ⅰ)」を算定することになるでしょう。
- 当該利用者様が加算対象かどうかの判断がつきません。
- 特別管理加算の加算対象かどうかについては、何よりもまず疾患ごとの算定要件を理解することが先決です。その上で、利用者様の状態を勘案して判断することになります。
加算の算定要件については、専門書や介護ソフトのマニュアル等にも解説がされているはずです。まれに判断に迷うこともあるかもしれませんが、その場合は保険者や厚生局等に問い合わせてみるのも一案です。
- 医療保険と介護保険を併用した場合は?
- 介護保険のサービスを利用している方が、特別訪問看護指示書が交付されたことにより、月の途中で医療保険に切り替わる場合があります。この場合、特別管理加算は両方算定できるのでしょうか。
この場合、介護保険と医療保険の併算定はできません。
また、月の途中で主保険が医療保険から介護保険に変更となった場合、「介護保険」が優先となります。したがって、医療保険を利用していた利用者様が、月の途中で介護保険に切り替わった場合、特別管理加算は「介護保険」のほうで請求することになります。
- 利用者が複数のステーションを併用している場合は?
- 利用者様が複数のステーションを併用している場合、保険種別によって対応は異なります。
介護保険の場合、訪問看護の特別管理加算は1つの事業所しか算定できません。
利用者が複数の事業所を併用している場合は、事業所間の合議により特別管理加算の算定をどうするかを決定します。
医療保険の場合は、特別管理加算の算定要件を満たしていれば、それぞれのステーションで算定することができます。
今回は、訪問看護ステーションにおける「特別管理加算」についてご紹介いたしました。
特別管理加算の算定要件となる疾患は、入院医療機関ではなく「在宅」での対応が求められています。社会保障費の持続可能性の観点からいえば、これはある程度理にかなっている話かと思います。
訪問看護ステーションにおいて、重篤な方のニーズが特に高まっています。
訪問看護師の確保は簡単なことではなく、非常に大変かとは思います。
しかし、利用者様のニーズに可能な限り対応することは求められますし、その評価の1つである特別管理加算については、訪問看護師としてしっかり理解する必要があるでしょう。
私たちも、特別管理加算を算定するケースが存在しますが、改めて算定要件を全員がしっかり理解して対応していきたいと心を新たにいたしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ぜひ、次回の投稿をお楽しみに!