訪問看護における「医療保険」「介護保険」の違いとは?

訪問看護サービスは、他の介護サービスに比べていろいろわかりにくい部分が多いといわれています。

その最大の理由の一つとして、同じサービスでも適用する保険制度が複数あり、それぞれ運用ルールが異なることが挙げられるのではないでしょうか。

実際、ケアマネさんの中にも、そのあたりの理解が十分でないケースもあるようです。

専門家であってもこのような状況になりがちなのは、本当に無理もないと思います。

介護保険・医療保険制度は本当にわかりにくいのが実情です。

このコラムは、ケアマネさんはじめ多くの職種の方にお読みいただいており、本当に感謝に堪えません。ありがとうございます。

今回は、訪問看護に存在する「介護保険」と「医療保険」のサービスの違いについて解説します。是非最後までお付き合いいただけますと幸いです。

訪問看護の概要

介護保険と医療保険の違いについてお話する前に、そもそも訪問看護サービスとはどのようなサービスなのかについて触れておきましょう。

訪問看護は、病気や障害、負傷等により居宅において継続療養をされている方に対して、「居宅」において看護師等が行う療養上の世話・診療の補助のことをいいます。

訪問看護を利用できるのは、原則として何らかの公的保険をお持ちの方です(厳密には、生活保護受給者等の方も利用可能です)。主治医から「訪問看護指示書」が交付され、その指示のもとに訪問看護師等がサービスを提供します。

乳幼児やから大人まで、年齢に関係なくご利用が可能ですが、年齢や病気によって利用できる保険制度(介護保険、医療保険)が異なります。

「第230回社会保障審議会介護給付費分科会」において公開された資料によりますと、医療保険の利用者数(令和5年6月審査分)は約48.4万人、介護保険の利用者数(同)は約74.4万人になっており、圧倒的に介護保険の利用者数が上回っています。

では、介護保険と医療保険とで、訪問看護サービスがどのように異なってくるのかについて、このあと見てまいりましょう。

介護保険での利用

介護保険における訪問看護サービスの対象となるには、いくつか要件があります。

まず利用者の年齢が「40歳以上が、それ未満か」がポイントになります。

後者の場合は、そもそも介護保険の対象外になりますので、自動的に「医療保険での対応」となります。

65歳以上の介護保険「第1号被保険者」と、40歳以上64歳の特定疾病(16疾病)の方で、介護保険の要支援または要介護と判定された「第2号被保険者」が対象になります。

なお「特定疾病」は、厚生労働大臣が定めた下記16疾病になります。

特定疾病に該当する16の疾病

①がん(末期)
②関節リウマチ
③筋委縮性側索硬化症
④後縦靭帯骨化症
⑤骨折を伴う骨粗鬆症
⑥初老期における認知症
⑦進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病
⑧脊髄小脳変性症
⑨脊柱管狭窄症
⑩早老症
⑪多系統萎縮症
⑫糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症
⑬脳血管障害
⑭閉塞性動脈硬化症
⑮慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎等)
⑯両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

さらに、介護保険サービスとして訪問看護を利用するには、市区町村に要介護(要支援)認定を申請し、認定を受けた後、介謹支援専門員(ケアマネジャー)などと相談して作成する居宅サービス計画(ケアプラン)に訪問看護を組み入れていただくことが必要です。

要支援または要介護と認定された方は、まずは介護保険を優先的に利用することになっています。これを「介護保険優先の原則」と呼びます。ケアマネジャーが作成するケアプランに訪問看護サービスが位置付けられ、さらには主治医から訪問看護指示書が交付され、必要な手続き(契約や重要事項説明等)を経て、はじめて訪問看護ステーションの訪問看護師等が訪問看護を提供できることになります。

サービス利用時間は、ケアプラン(必要な援助時間)により「20分未満」「30分未満」「1時間未満」「1時間30分未満」と区分されます。理学療法士等が行う訪問リハビリサービスは1回あたり20分以上のサービス提供が必要とされます。

介護保険での利用にあたっては、ケアプランに位置づけられている限り、基本的に制限はありません。区分支給限度基準額の範囲内であれば、介護保険を適用したサービスを何回でも提供できます。1日複数回提供することも、他の訪問看護ステーションが介入することも問題はありません。

医療保険での利用

訪問看護サービスは、前述の通り介護保険以外に「医療保険でのサービス」も存在します。

医療保険でのご利用を希望する場合は、まずかかりつけ医(主治医)に相談していただく必要があります。主治医が訪問看護の必要性を認めた方であれば、乳幼児から高齢者まで年齢に関係なくご利用可能です。 訪問看護ステーションは、かかりつけ医が交付を受けた「訪問看護指示書」に基づき、必要な看護サービスを提供します。

医療保険には、介護保険のような区分支給支給限度基準額という概念がありません。特に重い病気や症状(後述)の方は、医師が必要性を認めた上で医療保険のサービスを利用することができます。 ただし、介護保険のサービスと医療保険のサービスを同時に利用することはできないことになっています。

利用対象者についてですが、簡単にいえば介護保険の訪問看護が利用できない方です。
先ほども触れました通り、40歳未満の方はそもそも介護保険の被保険者ではありませんので、自動的に医療保険の適用となります。また、40歳以上64歳までで16特定疾病以外の方、介護保険法の介護認定の非該当者、厚生労働大臣が定める疾病等(別表7・別表8に該当)の方、精神科訪問看護の対象者(認知症を除く)も、医療保険での介入となります。介護保険サービスを受けている方であっても、病状の急性憎悪等により特別訪問看護指示書が交付された方も、同様に医療保険の対応となります。


主治医から訪問看護指示書が交付された訪問看護ステーションが訪問看護を提供します。
1回あたりの訪問時間は30分~1時間30分程度(精神科訪問看護は30分未満または30分以上)で、通常は週3回までですが、病状の急性憎悪等による特別指示期間、がん末期など厚生労働大臣が定める疾病等の方はその限りではありません。毎日、さらに1日複数回(保険算定できるのは1日3回まで)、訪問看護サービスを提供することができます。

以下、前述した介護給付費分科会資料に、わかりやすいスライドがありましたので添付します。

上記スライドにも示しておりますが、介護保険の認定を受けていても「医療保険」の対応となるケースについてまとめてみましょう。

(1)厚生労働大臣が定める疾病等の場合

下記の疾病等に該当する場合は、介護保険認定を受けていても医療保険での訪問看護となります。

特掲診療料の施設基準 別表第7

・末期の悪性腫瘍
・多発性硬化症
・重症筋無力症
・スモン
・筋委縮性側索硬化症
・脊髄小脳変性症
・ハンチントン病
・進行性筋ジストロフィー症
・パーキンソン病関連疾患(パーキンソン病の場合、ホーエン・ヤールの重症度分類がⅢ度以上であり、かつ生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度に該当すること)
・多系統萎縮症
・プリオン病
・亜急性硬化性全脳炎
・ライソゾーム病
・副腎白質ジストロフィー
・脊髄性筋萎縮症
・球脊髄性筋萎縮症
・慢性炎症性脱髄性多発神経炎
・後天性免疫不全症候群
・頸椎損傷
・人工呼吸を使用している状態

(2)特別訪問看護指示書が発行された場合

特別訪問看護指示書とは、急性増悪などにより、主治医が一時的に頻回(週4日以上)の訪問看護を行う必要性を認め、訪問看護ステーションに対して交付する指示書です。
この指示書が発行された場合には医療保険での訪問看護となります。

なお、特別訪問看護指示書の指示期間が最大14日間となりますが、「真皮を越える褥瘡の場合」「気管カニューレを使用する状態の場合」は、月2回(1回の指示期間は最大14日)まで交付が受けられます。

(3)認知症以外の精神疾患(精神科訪問看護指示書に基づく訪問看護)の場合

精神疾患の方についても医療保険での訪問看護になります。精神科訪問看護指示書が訪問看護ステーションに対して交付されます。

ただし、認知症の場合は精神科訪問看護を受けることはできません。介護保険被保険者であって、ほかに医療保険の対象要件を満たさない限り「介護保険優先」となります。

まとめ

訪問看護は他の介護サービスと異なり、介護保険と医療保険の両制度が混在し、かつ公費受給者の方もいるため、運用が複雑といわれております。保険請求の際も、この制度が複雑に関わるとわかりにくく、苦心されている事業所も多く耳にします。

制度を正しく理解し、訪問看護サービスの運営をスムーズに行っていただくために、本コラムが少しでもお役に立てば幸いです。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。